室谷悠太/Yuta Murotani

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高強度中赤外光源の開発と物性研究への応用

これからの研究テーマです。

光励起された半導体中の電子正孔BCS状態

半導体中の励起子は電子と正孔が結合した粒子ですが、高密度にすると押し合いへし合いを始め、ついには全て解離するに至ります。ところが、十分に低温では弱い結合を回復し、多数のペア(電子正孔クーパー対)が空間的に重なり合った状態になると考えられています。これは形式的に超伝導とよく似た状態のため、超伝導の基礎理論の名を借りて電子正孔BCS状態と呼ばれています。

電子正孔BCS状態は必要な高密度・極低温状態を実現するのが難しく、熱平衡条件ではなかなか実現されずにいました。しかし近年、強い光を半導体に照射することで、非平衡な電子正孔BCS状態を作り出せる可能性が注目されるようになりました。これは光によって作られる励起子が、電子正孔クーパー対と連続的につながっているということに基づいています。

実際に励起子を共鳴的に励起しながら光を強めていくと、励起子から電子正孔クーパー対への変化が起こるということが実験とシミュレーションの組み合わせによって確かめられました[1]。強い駆動場によって新しい物質状態が実現するこの現象はある種の光誘起相転移とみなすこともでき、近年盛んに調べられているフロッケ状態とも強い関連を持っています。
プレスリリースの紹介ビデオ 研究室の扉「光で新たな量子状態をつくる」島野亮教授、室谷悠太さん

[1] Yuta Murotani et al., Phys. Rev. Lett. 123, 197401 (2019).

強いテラヘルツ光による励起子のイオン化

光(電磁波)は強度が低いときは光子の集まりとして振る舞い、当たった物質とエネルギー量子をやり取りする働きをします。しかし強度が高くなると、荷電粒子を加速する電場としての性質が見過ごせなくなってきます。

例えば半導体中の電子(e)と正孔(h+)はクーロン力によって引きつけ合い、励起子という束縛状態を作りますが、1 ps程度の周期を持つ強いテラヘルツ光を照射することで、電子と正孔が逆向きに加速され解離(イオン化)してしまう様子が観測されました[1]。

光の電場は振動しているため、実際には光パルスが透過するまでに電子と正孔は解離と再衝突を繰り返しています。そこで、このような現象を物質中の加速器として捉える見方も提案されています。これ以外にも、電場としての光は物性を大きく変化させる可能性を持っていることから広く注目を集めています。

[1] Yuta Murotani et al., J. Phys. D: Appl. Phys. 51, 114001 (2018).

超伝導体中の集団励起と光の相互作用

金属の電気伝導を担っているのは電子ですが、超伝導体中では電子が対(クーパー対)となることで散逸のない伝導を実現しています。クーパー対は互いに影響を与えあうことで、同じバンドの中ではヒッグスモード、異なるバンドとの間ではレゲットモードと呼ばれる励起状態(集団励起)を形成します。自由エネルギー曲面上では、これらは極小点まわりの固有振動として現れます。

これらの集団励起はテラヘルツ帯の非線形光学応答に寄与することが理論的に示されています[1]。しかし、他にも個々のクーパー対を破壊してできる励起状態(準粒子励起)があり、それぞれが実際にどの程度寄与しているのかが議論になっていました。

最近になって、試料に含まれる不純物との散乱がヒッグスモードの振幅を増大させることにより、典型的にはその寄与がレゲットモードや準粒子励起をしのぐということが理論的に示されました[2]。不純物は多くの場合厄介者ですが、光でクーパー対を一斉に揺さぶる上では助けになるという面白い性質を持っていると言えます。

[1] Yuta Murotani, Naoto Tsuji, and Hideo Aoki, Phys. Rev. B 95, 104503 (2017).
[2] Yuta Murotani and Ryo Shimano, Phys. Rev. B 99, 224510 (2019).