研究室運営方針

アドミッション・ポリシー

松永は東京大学物性研究所に所属しており、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻A6サブコースとして大学院指導を受け入れています。大学院生として松永研究室に加わるには、同専攻の受験が必要です。

このページでは、大学院生としての研究室参加を検討する学部生の方向けに、松永研究室の普段の様子を紹介しています。研究室開設から丸7年が経過し、研究室のスタイルもある程度固まってきたところで、運営方針・教育方針と松永の考え方についてまとめました。現役メンバーにとっても参考になればと思います。初心忘るべからずということで、着任したときに「物性研だより」に寄稿した所信表明がこちら(pdf)です。

研究室を運営するにあたって、「どうすればみんながやる気を出せるか、高いモチベーションを維持できるか」ということを重視して、そればかり考えています。「大学院生や若手研究者なのだからやる気があって当たり前」とは全く思っていません。もちろん入学してくる時はみんなやる気を持って入ってくるのですが、20代中盤から30代にかかる大事な時期に、なかなか先の見通しがきかない研究をしていると、いろんな迷いや不安、そして不満が出てくるのが当然だからです。「やる気が出ない人は仕方がない、やる気を出した優秀な人だけ成果が出ればよい」とも思っていません。やる気を削ぐような要因をできるだけ排除し、みんなが研究に打ち込める環境を作ること、研究室生活自体を楽しいと思える環境を作ることが松永の役目だと思っています。その環境の中で実力を発揮して研究を頑張るのがみなさんの役目です。

楽しい研究室作りを目指していますが、楽な研究室は目指していません。研究はそれなりに大変です。基礎体力があること、体調を自己管理できることはとても重要な要素です。

研究室の過ごし方

月曜ミーティング(online)

毎週月曜9時から研究室全体でオンラインミーティングを行っています。ひとりずつ「先週の進捗や課題」と「今週何をやるつもりなのか」について手短に報告してもらいます。それを元にして、その週のマシンタイムを調整したり、今後の研究室の予定を確認します。全体ミーティングは決して長引かせず、合計1時間で終了することを心がけています。ひとりあたりの発表時間は5分程度しかないので、要点を押さえて的確に報告してもらう必要があります。それぞれの報告内容を聞いて、詳しいディスカッションが必要だと判断したら個別の対面ミーティングをどんどん設定します。

週の初めの朝に全員で揃うということは、生活習慣を整えるためにも重要視しています。夜型の生活を送りたい人は松永研究室には向いていません。朝起きて日の光を浴びて、夜しっかり眠る生活を心がけてください。

月曜ミーティングが終わったら、早速その週の研究の始まりです。自宅が近い人は自宅で朝ミーティングを終えてから物性研へ来る人もいますし、遠方の人は月曜ミーティング開始に間に合うように物性研へ来る人もいます。それぞれの判断にお任せしています。コアタイムも特に設けていませんが、研究室メンバーの大まかなスケジュールはwebカレンダーで共有しています。連絡がない限りは平日日中は物性研に来ていることを想定しているので、休みを取る際は必ず連絡してください。

雑誌会(online)

隔週木曜10時から2時間かけて、1人の担当者が自分が最近興味を持った文献(1-3編程度)について研究室メンバー全員に向けて詳細に解説します。プレゼンテーション能力の向上も意図しています。参加者全員の時間を2時間奪うことになるので、担当者は参加者全員にとって有意義な時間になるように質の高い発表をしてもらう必要があります。参加者は基本的なことから専門的なことまでどんどん質問します。年に2,3回ほど担当が回ってきて、その都度パワーポイントで約30枚程度の準備が必要です。発表は日本語でもOKですが、資料は英語で用意します。松永研究室が親しくしている外部の研究者の方々が参加してくださることもあります。

実験

大学院生は単位取得のためいくつか講義を受ける必要がありますが、それ以外は基本的に実験とその準備、そして実験結果の解析や論文を読んだり書いたりといったデスクワークです。松永研は柏キャンパスの広い敷地内に大変恵まれた実験環境を与えられています。主要な実験装置としてフェムト秒再製増幅レーザー5台と、それ以外にレーザー発振器1台、自作ファイバーレーザー2台があります。

ただし「試料をセットしてボタンを押せばデータが取れる」といった楽な実験はほとんどありません。松永研究室は「物質の光学的性質を測定する」のを専門とする、測定屋さんです。市販の装置では簡単にはできないような新しくて面白い測定に挑戦するために、専門的な測定技術を習得し、あるいはさらに改良・開発して、自分の研究のための独自の光学測定システムを組み上げてもらうことになります。自分の手を動かして実験室で作業を繰り返すのが好きな人に向いています。その試行錯誤の過程において、様々な光技術と基本原理、その背景にある光と物質の相互作用に関する物理を学びます。

テーマ選び

研究テーマ選びは、松永研の実験装置の状況や松永が抱えるプロジェクトといった境界条件の影響を受けます。大学院入試前の研究室見学や口述試験、さらに合格後の面談を通して、それぞれのメンバーがどういう研究に興味があるのか、どれくらい具体的に研究をイメージしているか、キャリアプランをどう考えているかなどを踏まえて、松永からいくつか最初のテーマの候補を提案します。その中で話し合いながら絞り込んでいくことになります。本人がやっていて楽しいと思える研究テーマになること、他のメンバーとはっきり区別された研究対象を持つこと、自分が進めなければ何も進まない状況で頑張ってもらうことを意識してテーマを設定します。

メンバー間で研究テーマはそれぞれ違いますが、実験の基盤となる光技術と知識はとても普遍的で共通する部分が多いので、先輩やスタッフに質問すると親切にアドバイスしてくれたり、詳しい議論にも付き合ってくれます。わからないことは遠慮せず、周囲に質問しましょう。「これくらいのことは自分で解決できないと恥ずかしいんじゃないか」と躊躇う必要はありません。初歩的な内容を質問すると、質問された側にとってもきちんと説明するためにはよく考えを整理しないといけないので非常に良い経験になります。逆にわからないままじっとしていると周りからの助けは得られません。どんどん質問して、松永含む他のメンバーと積極的に関わってください。

研究テーマが決まったら、その目標に向かって突き進む一方で、「この研究テーマにどういう意義があるのか」「途中で得られた結果にはどういう意味があるのか」について常に自問自答して、自分の言葉で人に説明できるまで消化してください。こういったことを常日頃から自分で考えて整理できているかどうかが、学会発表や質疑応答、論文執筆の時に大きな違いとなって現れます。「元々は○○という目的で研究を進めていたけど、改めて実験結果を見たり勉強を進めると、むしろ別の観点から△△の部分が重要だった」と気づいて方針転換することも多々あります。自分のテーマの意義や方向性について疑問を感じたらいつでも相談しに来てください。一緒に考えていきましょう。年次が進むにつれて、元々松永が提案したテーマから学生自身の発案によるテーマへと連続的に移り変わっていきます。

個別ミーティング・相談

月曜ミーティングの欄で書いた通り、研究の中身や進め方に関する具体的な議論のために個別ミーティングを頻繁に行います。研究以外のことでもどんどん相談に来てください。メールでもOKです。松永はメールの返信はかなり速い方だと思います。他の様々な仕事よりも研究室内のやりとりをできる限り優先していますので、遠慮なく個別に相談や議論を持ちかけてください。

研究で詰まっていることへの解決策がすぐ松永から得られるとは限りません。特に博士課程学生やスタッフの場合、自身の研究については松永よりも詳しくなっているはずなので、議論の際に松永はむしろ質問する側に回ることの方が多いです。それに答えながら、どう課題をクリアするか、研究をどう進めてどうまとめていけばよいのかを考えていってください。

学会発表・出張

機会が人を育てるという信念のもと、学生が外部発表する機会を積極的に作っています。少々粗削りでもどんどん発表しましょう。質疑応答の時間に質問への答えに窮してしまっていても、「共同研究者ですが」と言って割って入ることは松永はしません。もちろん事前の発表練習は入念にやりますし、質疑が不十分のまま終わったら終了後に質問者と別途議論する機会も設けますが、発表本番の質疑の時間はすべての回答を発表者に一任します。厳しい質問も自力で乗り切ってください。

学会では、会場での質疑応答だけでなく、休憩時間や懇親会での会話がとても貴重なものになります。研究室内のメンバーだけでなく外部の人たちとどんどん話して、研究のことやそれ以外のことでも積極的に情報交換してください。知り合いの輪を広げることは研究生活を楽しむ重要なコツだと思います

博士課程学生やスタッフの場合は国際会議の発表経験を積むことも非常に重要です。そのためにも、出張費用となる研究費を自分自身で獲得するという意識を若いうちから持っていてもらいたいと思っています。

最後に、松永自身はあまり積極的に海外出張には出向いていません。コロナ禍を挟んだこともありますが、研究室設立から丸7年経った時点で、松永が海外出張したのは4回だけです。国際会議へ出向いて情報収集したり成果をアピールしたりコミュニティ形成したりすることの重要性は研究者として重々承知していますが、一方で海外出張に要する労力とお金、そして研究室メンバーとの議論の時間や家族と過ごす時間が減るというデメリットも無視できないので、海外出張の頻度を抑えています。その分、物性研の所員室で仕事をする時間をできるだけ多く確保していますので、どんどん議論や相談をもちかけてください。


担当講義

自他共に認める講義好きです。本郷キャンパスや駒場キャンパスにも出没します。

大学院講義

光物性物理学 (2018-2024)
光物理学特論(オムニバス形式) (2019, 2020, 2022)

学部講義

学部3年生 物理学ゼミナール「光物性物理学・非線形光学入門」 (2019, 2020, 2022-2024)
学部1,2年生 柏サイエンスキャンプ「未開の電磁波『テラヘルツ波』で物を観察してみよう」 (2021, 2022)
学部1年生 初年次ゼミ「レーザーと光科学への導入」 (2023,2024)

集中講義

京都大学 物理学第一分野「量子物質におけるテラヘルツ非線形応答と高速輸送現象」 (2023)

好きな言葉メモ

人間万事塞翁が馬」(淮南子)
人事を尽くして天命を待つ」(胡寅、読史管見)

先のことはわからないですからね。今できることを頑張りましょう。

むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」(井上ひさし、The座(1989))
人材再生のための第一歩は観察である」「先入観や固定観念を排して徹底的に選手を観察する」(野村克也)

恩師金光義彦先生の退職記念パーティーで聞いてきた言葉です。かくありたいと思っています。